くじけそうな時も支えてくれた恩師と友人たち
「大学では興味深い授業をなさる先生が大勢いらっしゃいました。聖心はリベラル?アーツ教育により1年次から幅広い分野が学べるので、興味の向くままさまざまな分野の授業を受講しました。受験のための勉強だった高校時代とは違い、学ぶ面白さを知りました」
キャンパスの近くにあり、現在は大学の4号館/聖心グローバルプラザとなっているJICA(国際協力機構)広尾センターで難民支援について知見を深め、高校生の時は苦手に感じていた日本の古典文学も楽しく学んだ。幅広く学ぶ中でも、やはり最も興味が持てたのは心理学だった。心は人間のすべての根本であると感じ、また、自分の気持ちと向き合えるのも面白かった。入学のきっかけとなった心理学の先生の授業を受ける時には必ず前方の席に座り、話に聞き入った。その思いが実ってその先生のゼミに入り、大学院でも同じ先生に学んだ。
修士論文では青年期のネガティブな感情を扱った。生きていれば嫌なことや落ち込むこともある。そんなネガティブな経験を人はどう乗り越えていくのかを明らかにしたかった。人の心の奥底を探るデリケートなテーマであり、取り扱いが難しいのではないかとの意見もあった。周囲からテーマの変更を勧められもしたが、諦めたくなかった一田さんは先生に相談した。
「先生は『やってみよう』と背中を押してくれました。皇冠体育のリスクとその対策などを一緒に考えてくださり、最終的に納得のいく論文を完成させることができました」
くじけそうになった時には友人たちも支えてくれた。ゼミでは、皇冠体育熱心な仲間たちと意見交換をしながら論文執筆を進めていった。自分一人で調べていて限界だと感じても、仲間に相談して別の視点から意見をもらうことで解決することも多かった。
在学中にはもう一つの印象的な出会いがあった。一田さんは1年次に大学の先輩に誘われ、外部の国際ボランティアサークルに所属した。先輩は自己主張が苦手で受け身ながらも責任を持って物事を進める一田さんの性格を見抜き、サークルの運営に関わるよう勧めてくれた。
困難を乗り越える一助となるために確実な根拠を追い求める
現在の一田さんの一日は、物忘れ外来で、初診の患者さんの神経心理検査を行うことから始まる。来院するのは主に認知症患者で、年齢や日付などを質問する、記憶力を検査するなどの方法で状態を確認し、その結果を医師に報告。午後は再診の患者さんの検査を行う。月に2回実施される集団精神療法では、入院している患者さん向けのお話し会やものづくりなどの企画?運営にも携わる。
疑問点は上司のふくえ福榮みかさんに相談する。聖心女子大学の卒業生でもある福榮さんの指導は丁寧で分かりやすく、「一人ひとりに合わせて検査を行う」という教えは、病気の症状や重症度が各々異なる患者さんを対象とする神経心理検査を行う上では常に意識している。
患者さんの大半は検査に協力的であるが、中には家族に促されて仕方なく来る人もいる。戸惑うことも少なくなかったが、現場での経験や、研修会などで勉強する中で、あることを学んだ。
例えば、日常生活で失敗を繰り返し、自信を失くしてしまった患者さんには、さりげなくできている部分を褒めることを意識している。始めは表情が固かった患者さんも、「まだまだ私も大丈夫なところもあるじゃない」と冗談を言って笑う。この仕事にやりがいを感じるのは、そうした患者さんの笑顔に接することができた時だ。
「人に興味があって、人と話すことが好きなんです」と笑う一田さん。患者さんが毎日を少しでも生活しやすくするための援助がしたいという。目標とするのは、根拠を示した上で論理的に説明できる臨床心理士。大学時代、統計的に人の心を分析できると知り、「心理学とは科学でもある」ことを学んだからだ。人が困難と向き合い、乗り越える仕組みを科学的な根拠をもとに解明したい。人の心という捉え難いものと向き合いながら、それでも確実性を追い求める根本には、困難な状況にある人を助けたいという強い意志があるのだろう。
- 心理学科
横浜市立みなと赤十字病院
精神科部 臨床心理士
教育学科心理学専攻(現:心理学科)2012年3月卒業
大学院 人間科学専攻 臨床心理学皇冠体育領域博士前期課程 2014年3月修了
※ 所属?肩書きを含む記事内容は、インタビュー当時(2018年)のものです。